第三話
策士の罠
ある家庭の日常
妻『今月もあとこれだけか~』
男『すまねぇな、日雇いでも探してくるか』
妻『私も働けば良いんだけど、もうちょっと子供たちが大きくならないとね~』
男『わりぃな』
妻『自営って大変ね』
男『会社務めの方が楽だったかな?余計な野望だった…とりあえず公園で遊ばせてくる』
男は現在トラックの運転手。
勉強より車やバイク、レースなどに興味をもち20代を過ごした人物。
現在二児の父、応用のきかない自分の人生に少し後悔しつつ子供を公園に連れていく。
子供『父ちゃん!』
男は考えにふけっていた。自分の人生を変えようと就職したものの、慣れない集団生活に嫌気がさし退職をした。
子供の声は届いていない。
子供『父ちゃん!ねぇってば!ねぇ!』
男『はっ!』
子供『なんで聞こえないの?』
男『ああ、悪かった』
子供『飛行機作って!』
男『ああ、良いぞ、貸せ』
男の受け取った紙には、
『経営にお悩みの方ご相談ください、必ずや復活させます!』
と書いてある。
男『経営コンサルティング?…これどこにあった?』
子供『落ちてた!作って~!』
男『…あ、あ~…わかった、待ってろ作ってやる!』
子供『まだ~?』
男『ほら、出来た!』
子供『わ~い!やってやって!』
男『ほらっ!』
子供『あはははは!』
男『シワだらけだったけど思ったより飛ぶなぁ!』
子供『わーい!』
男はしわくちゃの紙で作った飛行機の飛ぶ姿に運命を感じていた。
ボロボロでも飛べる。
まだやれると。
子供『あはは!もう一回!』
男『よし!』
家に帰ると男はコンサルティング事務所に真っ先に電話をした。
男『もしもし、ちょっと相談にのってほしいんだが』
No.2『それでは明日3時からでいかがでしょうか?』
翌日、男は自身の全てを話していた。
No.2『なるほど、これでは厳しいですね』
男『収入は得てるつもりだが』
コンサルタントの男は駄目な所を指摘する。
No.2『…とりあえず判断するには数字だけでなく、あなたを知る必要がある、ちょっと仕事を見せてもらいましょうか、ちょっと隣に乗せてください。』
指示を受けるまま走る道は狭かったり、山道だったり、わざわざ難しい面倒な場所を通っていた。
まるで何かのテストのよう。
No.2『なるほど、中々の腕前、あんな細い道こんなトラックで通れるとは、しかもスピード…違反になりますよ』
男『…趣味でライセンス持ってて…』
No.2『そうですか…合格!』
男『え、何が?』
No.2『いえ、何でもありません、素晴らしいお仕事振りです、良かったら私の上司に会っていただけませんか?』
男『上司?仕事をくれるのか?』
No.2『そうですねぇ、話が合えば。そこ右に行ってください…ちょっと待っててもらえますか』
男『ああ』
No.2『もしもし、今から行きます』
またしても案内される場所は賑わいのなくなった飲み屋街、コンサルティングの男のイメージとはかけ離れている
No.2『ではそこを入って行ってください』
男『こんなトコに会社があるのか?』
No.2『言わば本社です』
男『ここか?』
No.2『ええ、どうぞ』
見たことのない施設、入り口はドアではない。
明らかに怪しげだが、中はシンプル。
整った精鋭の企業のようにも見える。
奥から男が現れる。
No.1『どうも、どうも、よくぞ相談してくれました』
男『ああ、どうも』
No.1『さぞ困ってたんでしょう、素晴らしい腕前だとNo.2からお聞きしました』
男『え、何が?・・・』
男は異様な雰囲気を感じていた。社長らしき人物はコンサルティングの男をNo.2と呼ぶ。
No.1『我々もあなたと同じ、世知辛い世の中を味わった同志。そんな人々を救いたいとコンサルティングをしております』
No.2『どうぞ、座って』
男『ああ、はい』
No.1『これからNo.2がどうしてあなたの生活が苦しいか、ご説明します』
コンサルタントの男は世の中の仕組みについて語った。
全ては自分達に有利に運ぶように。
この男に復讐心を生み、自分達の仲間として受け入れるために。
男『そうか、そりゃ許せねぇな』
No.2『我々と一緒に世の中を変えませんか?あなたの腕が欲しい』
男『どんな仕事だ?』
No.2『悪をこの世から一掃するために我々が世の中を刺激するんです』
男『悪?』
No.2『我々の血と汗を無駄にする奴らに制裁を加えるのです』
男『…許せねぇが、そんなの良くないんじゃないか?』
No.2『あくまで間接的に、絶妙なラインを攻めるのです。刺激です。ライン攻めは得意分野では?』
男『…』
男は今一つ踏み込めないでいる。
No.1『ちょっと良いですか、これは我々の生活に平和をもたらします』
No.2『私たちは世の中を正しい方向に向けるのです』
男『平和?正しい方向・・・』
No.1『不安を感じていらっしゃる?考え方を変えるのです。今まで生きてきて不満を感じたことはありませんか?あなたは自分の利益ですら飯が食えず困ってる』
No.2『ところが、自分で働きもせずに食える人間もいる』
男『…』
No.1『私たちは間違っていることを正すだけ』
男『…これで子供たちは笑えるのか?』
No.2『きっと』
No.1『一度に沢山話しすぎました、今日は送って差し上げなさい』
No.2『そうですね、行きますか』
男『あんたらを手伝えば、それで飯が食えるのか?』
No.2『もちろん、事がうまく運べば今より良い生活が送れるでしょう』
男『平和になるんだな?』
No.1『ええ、我々と我々の周りのものは』
男『・・・そうか』
No.2『きっとお子さん方も楽しめる楽園です』
No.1『自分達の未来は、自分達で作るのです、我々で!』
そう言うと上司の男は部屋を出ていく、決断を冷静に出来るように。
男は悩んだが、どのみち上手くいかない人生、どこかで自分のギアを戻そうとしていた。
男『・・・なら、やろう』
No.2『ありがとう、あなたで3人目です』
男『え?そうだったのか、もっと社員いるのかと思った』
No.2『まだ出来たての集団でして、仲間を探しているのです、あなたのように困っている強力な仲間を』
男『はは、そりゃ光栄だな…』
No.2『先程上司と言いましたが正確にはチームのリーダー。コードネームNo.1です』
男『だからか』
No.2『そう私がNo.2。そしてあなたが3番目、コードネームNo.3』
コンサルタントの男は銀色に輝くマスクを取り出す。
男『これは?』
No.2『これは我々の象徴、そしてあなたを守る物』
男『正体を隠せと?』
No.2『そう、ご家族にはうまく伝えた方が良い、トラックも売った方が良い、それでしばらく食えるでしょう、我々のドライバー以外の仕事も斡旋しますよ。我々の仕事は普通じゃない、覚悟を決めてマスクを取りなさい。』
男はマスクを受け取った、全ては家族のために。
男『…』
No.2『これからよろしくNo.3、ようこそダイスへ』
男はコンサルタントの男と同じように仮面を身に付ける。
No.3『おう!決めたらやるぜ!何でも言ってくれ!』