Story

映像用脚本 第一話

このプロットは2009年に書き始めたもので当時の時代背景を元に考えていた映像向けの内容です。


アクション俳優を夢見ていた彼はアルバイトでヒーローショーをしていた。

20代後半になり、親の言葉で自分の人生を見つめなおした彼は夢を諦め家業を継ぐため帰郷する。
世は不景気のまっただ中。
不景気の煽りを受けていた家業は親との折り合いがつかずケンカばかり。
ケンカをし、一人になるたび俳優への想いを思い出す程度に未練はあったが、食わねばならなかった。
実は俳優を志す前、教育学部に通い教員免許だけは持っていた。
自分自身の人生を求め、たまたま募集のあった小学校の面接を受け臨時職員として勤務するようになる。

学校にも慣れてきた頃、彼は得意分野を生かし、子供達を喜ばせるため、お祭りで販売されている既製のお面をつけてショーを見せていた。
彼は子供達にとってまさしくヒーローだった。
それに目を付けた校長が彼に、今のご当地ヒーローブームを話し、この小さな市を活性化するためにヒーローを作ったらどうかと持ちかける。
だが彼にとっては今のままで十分だった。

幾月が経ち、彼は密かな異変に気がつき始める。
とても小さなことだが、クラスで夢を発表する際、夢を書けない男の子がいることに気付く。
その子の親は何かにつけて理不尽な事を言ってくる、まさしくモンスターペアレント。
遠足の写真の真ん中にわが子が写っていないだけで、何時間も理由を聞かれる。

世の中は今、夢を追いかけづらい状況で、
夢を書けない子が他にもいるんじゃないかと思った彼は、校長の言葉を思い出し、全ての子供に夢を与えるとの思いで、慣れない手付きでオリジナルのマスクを作り始める。
デザインは市の有名なダルマをモチーフにしたヒーロー。
敵は捨てられたゴミが寄り集まって産まれたゴミ怪人…そんな設定を考えるうちに次第に気分がのって、どんどんと製作を進めている。

その一方、夢の書けない男の子はなぜか、日に日に生気を失っていくようだった。
もしかして家族に何かあるのか?
一刻も早く、その子に見せてあげたいとの思いで作るが、どうしても時間が掛かる。

そんな中、モンスターペアレントの暴風が異常なほどに吹き荒れる。
今まではバンバン叩いて音を鳴らしていただけの机が…
その時はフレームごとひしゃげ、真っ二つになった。
吐く息は荒く、顔は血が上り黒く見えるほど、その形相はまさしくモンスターだった。
校長がどうにかなだめ、事は収まったが、現実とは思えぬ状況がそこにあった。

『なぜあんなに怒らせたのかね?』

『…わかりません。いつも通りでしたが、いつもと違いました…』

しばらくしてヒーローも完成間近、武器も作りトレーニングも積んだ彼のステージデビューの日。
ショーを終えると子供達がたくさん握手や撮影をするために集っていた。
賑わいの中に突然街から叫び声が聞こえる。
悪役の仲間が外でお客を弄って遊んでいるのかと思い控え室から出てみると、仲間が数人飛ばされる光景を目の当たりにする。
大きいとは言えないその体から放たれるパンチは大人を軽く3メートルは飛ばす。
まるで良く出来た演出のショーだ。

だがその顔には見覚えがあった、あのモンスターペアレントだった。
我を忘れるように暴れまわる姿は、ヒーローショーに出てくる異形のゴミ怪人よりも生々しい。
人間に角が生え、血管が浮き出した黒い形相、筋肉も隆々だった。

そのモンスターは子供達の集まる会場に向かっていた。
彼はケンカは強いほうではなかった、強いて言えばアクションのトレーニングだけは怠らなかった所謂普通の彼だが、ヒーローの格好をしているのに子供達の前から逃げ出すことは出来なかった。

あの子の母親なら何とか説得できると思い近寄るが、その重いパンチを体に受けることになる。
身体は宙を飛ぶが、イベント会場には多数のテントがあり、それが彼の身体を受け止める。
軽く頭を打ったものの運良く助かった彼は、また飛ばされても大丈夫なように頭部を守るお手製のマスクをつけ、彼は史上最弱のヒーローに変身する。

説得できないと知った彼は子供達を逃がそうと先回り、幸いモンスターより足は速かった。
避難させようと声を張り上げる中、そのモンスターの子供を見つける。
ヒーローショーを見に来ていた男の子は彼に弱々しく話しかける。
最初に並んでいたのに、いつも突っかかってくるグループによって、後ろの方にさせられていた。
次の回も楽しみに、ようやく座れた席から離れまいとしていたが、主人公はモンスターの目的を察知し、その男の子を連れ出す。

狙いは当たり、モンスターはわが子を追いかけてくる。
人気の少ない場所に誘い出したは良いが、この先の対応なんて考えていなかった。

男の子は目の前の怖いモンスターに怯えていた。
母親とは気がついていないようだ。
男の子を安心させようと、とりあえずポーズを決めて、これはショーなんだと思わせる作戦に出る。
ひたすら男の子を守るために体を張り、ボロボロになる主人公。
子供を前にしているせいか、最初の一発ほどの威力はない。
だが蓄積されたダメージから立ち上がる余力もわずかな時、モンスターが子供に手をかける。

『…まずい!』

と思ったが、モンスターはその子に話しかける

『ドノコガアナタノセキヲウバッタノ?』
『どのコがアナタノ席をウバッタの?』
『どの子があなたの席をうばったの?』

だんだんとモンスターの顔は母親の顔へと戻っていく、男の子はショックで気を失っていた。
頭にはにょっきり生えた角が残っている。

映画みたいだが、今この時がチャンスと思った主人公はその角をお手製の武器で叩き折る。

するとみるみる、黒い血管は引いていき、角は溶けてなくなった。

母親は今までの記憶がすっぽり抜け、何事もなかったかのように子供を抱きながら自分の想いを語り出す。
聞けば、母親は自分の子を愛する気持ちが強かっただけなんだと感じた。
誰だって同じ思いはある。
周りのお母さん友達の中では遠慮がちで我慢するタイプ。せっせと家事をこなし、家に興味も持たない旦那は帰ってきて寝転がるだけ。
こんな生活を変えたいと疲弊していた時、街で知らない人物に声を掛けられたと言う。

黒く覆われた服を着ていて、占い師をしていると言っていた。
男か女かもわからなかったが、話を良く聞いてくれ、今まで溜まっていたものを吐き出せている気がした。

『あなた疲れてますね、この薬を飲むと我慢しなくて済みますよ』

と言われ、優しい言葉に魅かれ購入、服用をしていた。
飲めば気分は大きくなり、強気になり、今まで我慢していた自分を吐き出す事が出来たと言う。
ショーを見るため、子供を友達の所に下ろし、車を駐車場に止め会場に向かう最中、我が子の泣き声を聞いたと思ったら、今子供を抱いていると言っていた。

その話を聞き、母親を変化させた何か得体のしれない原因があると察した彼は、その話を警察に相談する。
あまり信用してもらえず、肩を落とし帰路につく。
謎の黒い占い師。
謎の薬。
そんな事を考えながら歩いていた。

彼の踏みしめた芝生、そこは戦いのあった広場の芝生。


・・・・・


・・・・・角が溶けた場所、闇夜になると黒い花が芽吹き始めていた。


つづく…