Story

第五話

~「笑顔の約束」~

とある小さな民家を改造した劇場マジックショーを上演中

 

No.4『そらっ!』

 

観客の男『うおお!』

 

観客『…』

 

No.4『これならどうだ!』

 

観客の男『おお!凄い!』

 

観客『…』

 

No.4『どうもありがとうございました!(最近良く見にくるな、この人何回同じネタ見せてもウケる)』

 

観客の中には冷めた目で見るものも多いが、その中にいつも見に来る青年がいた

とても純粋にショーを楽しんでくれているよう

それがNo.4には嬉しかった

一ヶ月後

マジックショー本番…

 

No.4『ようやく夢見た本格的な舞台!頑張ろう!』

 

これはダイスが仕込んだ実験データ収集の場であった

No.4はそれを知らない

危害を加えるわけではない

あくまで薬の効果を測るために

 

No.4『皆さんこんにちは~!(あれ?思ったより人いないな、あっ!やっぱり来てる)』

 

観客からはまばらな拍手

ここは小さいながらもれっきとした芝居用の小屋

黒で覆われているためマジックには向いている

最大80名収容可能

 

No.4『さぁ始まりますよ!そらっ!』

 

観客の男『うおお!』

 

No.4『えい!』

 

観客の男『すげー!』

 

No.4『いよいよ大詰めです!良くご覧ください!えぃ!』

 

観客『きゃアアア!』

 

No.4『あっ!あっ!なんで!消えろ!消えろ!』

 

大詰めに取っておいたファイヤーマジックは火薬の量を間違え手袋に燃え移る

焦る心は状況を悪化させ芝居小屋の幕へと燃え移り、炎は瞬く間に広がった

 

観客の男『ダメだ皆!逃げろ』

 

No.4『まずい!消さなきゃ!』

 

……

 

観客の男『みんな逃げられたか?』

 

観客『そんなにいなかったからな』

 

観客『マジシャンどうした?』

 

観客の男『…!?まずい!』

 

メラメラと燃え続ける小屋

観客の男は中へと入っていく

 

観客の男『おーい!無事か!?ゴホッゴホッ』

 

No.4は自身の責任を感じ火を消そうと中に残り気を失っていた

 

No.4『…』

 

観客の男『おい!大丈夫か!』

 

No.4『…』

 

観客の男『まずい、意識がない…。あっちから出れそうだ、ゴホッ!外に出る前に…』

 

観客の男は少し慣れているよう

火事場の確認事項を思い出すようにチェックする

 

観客の男『うん、大丈夫だ』

 

……サイレンの鳴り響くなか応急処置が施される、幸い大事には至らなかった

病院の一室、面会時間の過ぎた夜…

 

No.2『無事か?』

 

No.4『…』

 

No.1『ここがどこかわかるか?』

 

No.4『う…』

 

No.2『あんたが起こした火事のせいで身辺調査が始まる』

 

No.4『うう、ごめん…』

 

No.1『安心しろ、お前ではないマジシャンに情報を書き換えた、ここに入院してる理由も別だ』

 

No.4『…』

 

No.2『明日夜迎えに来る。支度を整えておけ』

 

No.4の元に花が届く、手紙が付いている

(いつも楽しいマジックをありがとう、治ったらまた見せて)

観客の男からの手紙だった

その日の夜…

 

No.2『大丈夫か?』

 

No.1『行くぞ』

 

No.4『あ、うん』

 

朝届いた花を大切そうに抱えている

 

No.1『そんな花、何するんだ!』

 

No.2『いや、何も残さない方が良い』

 

No.1『そうだな、こっちだ』

 

病院の裏路地

No.3が車を停めて待っている

 

No.2『当分マジックは禁止だな』

 

No.4『え…』

 

No.1『ああ、死なれては困る』

 

No.2『実験は別の所でしよう』

 

No.4『…実験…じゃない、マジック…やらなきゃ』

 

No.2『何を言う?』

 

No.4『待ってくれ!その花捨てないで!』

 

No.1『見舞いでもらうような辛気臭い花などいらん!』

 

No.4『やめてくれよ!』

 

No.2『フッ、一体どうした?』

 

No.4『待ってる人がいる、僕のマジックを、彼に見せるまでは辞められない』

 

No.1『何を言ってる、ダメだ』

 

No.2『誰だそいつは?』

 

No.4『いつもマジックを見に来てくれてた人だ…喜んでくれるんだ!』

 

No.2『あんたのマジックでか…フフ、アホなんだな』

 

No.4『バカにしないでよ!うっすら覚えてるんだ!彼が命を助けてくれたんだ!』

 

No.1『命を?…ほう、調べてみろ』

 

No.3『おっし!着いたぜ!』

 

ラボに入りNo.2がPCを開く

 

No.2『関わった奴等は万が一のために調査済みだ、どいつだ?』

 

たくさんの個人情報が顔写真付きで表示されている

 

No.4『…彼だ!』

 

No.2『こいつか、○○電子産業株式会社…フリーターか?』

 

No.1『随分勇気あるフリーターだな』

 

No.2『なるほど、地元の消防団員か』

 

No.3『消防団員ってそんな事出来んのか?』

 

No.4『彼のためにやらせてくれ』

 

No.1『ダメだ!馬鹿馬鹿しい!』

 

No.4『…』

 

No.2『良く考えろ、せっかく事件を帳消しにしたのに、またやる気か?』

 

No.4『…』

 

No.1『わかれ、No.4!我々の仕事はショーじゃない』

 

No.4『…なら、彼を入れてくれ…』

 

No.3『は?』

 

思わぬ発言に一同きょとんとしている

 

No.4『彼をダイスに!』

 

No.1『ハハハハハ!』

 

No.4『僕は真面目に言ってる!』

 

No.2『こんな凡人、ダイスには必要ない』

 

No.4『経歴を見れば凡人だって事はわかる!彼の僕を見つめる目はとても純粋だ!』

 

No.2『そんな事は関係ない』

 

No.4『彼がダイスにいればいつだって見せてやれる!約束が果たせる!』

 

No.1『約束?』

 

No.2『何だか知らんがダメだ』

 

No.4『ダイスが火事に巻き込まれた時に役に立つかも?』

 

No.2『ならちゃんとした消防士を探す』

 

No.4『…なら、僕も抜ける…』

 

No.2『そうはさせん』

 

No.4『僕はもともとこう言うのに向いてない…』

 

No.2『男らしくない、卑怯だぞ』

 

No.4『卑怯で結構!僕はピエロだからね!』

 

No.1『…』

 

No.2『貴様!』

 

冷静なNo.2がNo.4の胸ぐらにつかみかかる

 

No.1『待て、そんなに大事なことなら一つ聞こう。約束とは何だ?』

 

No.4『…怪我が治ったら見せてくれって』

 

No.1『ほう』

 

No.4『助けてもらった礼をしたい』

 

No.1『監視カメラの映像で何か映ってるのを拾えないか?』

 

No.2『No.1何を考えてる?絶対ダメだ、理想的なメンバーのバランスが崩れる!』

 

No.1『良いからやれ』

 

No.2『…くっ…ほら』

 

そこに写し出されたのは芝居小屋の近所にあるコンビニの監視カメラから見える映像

火事が起き、観客達が飛び出てくる

 

No.1『…ほう、一度は逃げたのにまた入っていったな、勇敢だ』

 

No.2『…』

 

No.1『よし、こうしよう、そいつと話して、やると言ったら入れてやる』

 

No.2『なっ!バカな!』

 

No.1『なかなか勇敢で、人を救えるだけの知識と体力はある、勤め先もパートとは言え電子関係、役に立つかもしれんが…やると言うかな?』

 

No.2『…フ、面白い賭けるか…』

 

No.4『わかった!ありがとう!話してくる!』

 

No.4は急ぎラボを出ようとする

 

No.1『待て!良いか、秘密が漏れては困る、そこだけはしっかり出来るか確認しとけ!』

 

No.4『うん!』

 

○○電子産業、工場前

人々の帰宅時間

No.4は観客の男を探していた

 

No.4『あ!すみません!』

 

観客の男『…んあ?…あっ!』

 

No.4『良かった!会えた!あの時のお礼を、そらっ!』

 

マジックで花を出す

 

観客の男『おお!わざわざそれを見せに!?』

 

No.4『そうです!約束ですから』

 

観客の男『ありがとう』

 

No.4『僕は多分、これが最後でマジックショーを引退するんです』

 

観客の男『ええ?そうなのか!…そりゃ残念だな、もっと見たかった』

 

No.4『そうか、そう言ってもらえると嬉しいよ!あの時は命を救ってくれてありがとう!』

 

観客の男『俺も楽しませてもらった、その礼だ。んじゃ、元気で!』

 

No.4『待ってくれ!あともう一つ…僕らの仲間にならないか?』

 

観客の男『え?仲間?』

 

No.4『君も今のままで良いのかなって疑問を持ってるはずだ!』

 

観客の男『はぁ…?』

 

No.4『僕らは社会を変える集団、ダイス。君も一緒にやろう』

 

観客の男『…それは、楽しいのか?』

 

No.4『楽しいかわからないが、楽しい人生を過ごすために活動する』

 

観客の男『ああ、あんたも入ってるのか?』

 

No.4『もちろんだ』

 

観客の男『ふーん、なら、やる』

 

No.4『え?』

 

男のあまりにも簡単に出た答えにきょとんとしている

 

観客の男『んで、いくらだ?』

 

No.4『え?』

 

観客の男『会費とか?』

 

No.4『え?え?何かと勘違いしてないか?』

 

男は急に渋い口調で聞いてくる

 

観客の男『世直しって言うのか、そう言うの?』

 

No.4『ああ、間違っちゃいない、でも痛みを伴うかも?』

 

観客の男『…よくわかんないな、とにかくあんたがいるならやるよ』

 

No.4『え?え?…秘密とか守れるかい?』

 

観客の男『ネタをばらすなって事だろ?安心してくれ、口はかたい』

 

No.4『ちょっと違うような気もするけど…』

 

観客の男『集まる日とか場所とか服装とか教えてくれ』

 

No.4『なら迎えにくるよ…あ、そうそう服装だけど…よっ!』

 

観客の男『おお!凄い!』

 

No.4がマジックで出したのは銀色の仮面

 

No.4『これを着けてくれ、ただしこれを持ってることは誰にもバレないように』

 

観客の男『ああ、わかった、演劇か何かか?』

 

No.4『説明は後程…あ!あとこれから君のコードネームはNo.5だ!』

 

観客の男『No.5?あ!ファンクラブか!そうやってファンを増やすのか?俺が五人目か!もっと増やすべきだ!営業頑張りなよ!』

 

No.4『あ、えーと…あ~うん!』

 

No.5『んじゃ俺がNo.5ね、わかった、よろしくな!』